全労働の活動・とりくみ

2010年10月
緊急フォーラム
地域主権改革で脅かされる 労働者の権利

 5月21日、東京都豊島区のラパスホール(東京労働会館)にて、「“地域主権改革”で脅かされる労働者の権利」と題した緊急フォーラムが開催されました(主催:働くもののいのちと健康を守る東京・神奈川・千葉・埼玉各センター、東京社会医学研究センター、東京地評、全労働)。報告者からは、それぞれの立場から地域主権改革がもたらす問題点が次々と指摘され、労働者の権利を守り発展させるため、国の責任を果たさせることが重要であることを確認しました。以下に、フォーラムの内容を紹介します。


司 会 中林 正憲(働くもののいのちと健康を守る千葉センター事務局長)
報告者 佐久間 大輔(日本労働弁護団事務局長)
村上 剛志(東京社会医学研究センター理事)
森崎  巌(全労働省労働組合中央執行委員長)

司会(中林) 今日の司会を担当させていただきます、働くもののいのちと健康を守る千葉県センターの事務局長をしております中林です。
今日は、「地域主権改革で脅かされる労働者の権利」と題してフォーラムを行います。 地域主権改革によって労働者の権利に悪影響が出るというが、その中身がよくわからない。また、地域経済の活性化のために労働局を都道府県に移管するというが、本当に労働者の権利は守られるのかと考えていくとたくさんの疑問が生じます。本当のところ、このまま改革が進んだら、国の形が変わってしまうほどの大変なことになるのではないかという大きな危機感をもちます。
ところが、まだまだその実態についてほとんど知られていないことから、緊急にフォーラムをやろうではないかということとなり、今日の開催となりました。
主催は、働くもののいのちと健康を守るとりくみを進めている東京、神奈川、千葉、埼玉のそれぞれのセンターと東京社会医学研究センター、東京地評、全労働です。
今日は、3名の報告者をお願いしています。
日本労働弁護団事務局長の佐久間先生、社会医学研究センター理事の村上さん、全労働中央執行委員長の森崎さん。それぞれの分野から、いま行われようとしている地域主権改革の中で、労働者の権利がどのような形で奪われようとしているのか、どういう目論見が見えるのかをしっかり指摘していただきます。
今日のフォーラムを一つの契機にして、しっかりと運動として進めていきたいという思います。
最初に、新政権の地域主権改革のねらい、あるいは全体像はどういうものなのか。全労働の森崎さんからご報告いただきたいと思います。

1 地域主権改革のねらいとその特徴

 

森崎 私は今から15年前ですが、政府に設置されました地方分権推進委員会、会長は経団連の副会長だった諸井虔氏ですが、その委員会から地方分権と労働行政の関わりについてヒアリングを受けたことがあります。その当時から今日まで、地方分権と労働行政の関わりについてずっと向き合っていた思いがあります。その観点から今日の地域主権改革をどうみるか、お話をさせていただきたいと思います。
今日、与党・民主党が掲げる政策の「1丁目1番地」と言われている地域主権改革は、言葉の新しさ、斬新さもあって、国民に漠然とした期待があるように思います。その言葉の響きから、地域住民が政治や行政の中で大切にされていく、そんなイメージも広がっているように思います。しかし、具体的な中身はどんなものかとなると、まだまだ国民の中に知られていないと思っています。
私はいくつか特徴を指摘したいと思います。
一つ目は、この地域主権改革が、前政権の地方分権改革を全面的に踏襲しているという点であり、さらに従来以上に強力に推し進めようという姿勢も見てとることができると思います。事実、今国会に提出されています地域主権改革関連法案の中身を見てみますと、前政権が行おうとした「義務付け・枠付け」の見直しをそのまま盛り込んでいます。推進体制も地域主権戦略会議を設置し、かつての経済財政諮問会議さながらに総理が加わり、マスコミによく登場する知事たちも加わった強力な機関ができあがっています。
二つ目の特徴ですが、一貫した財界主導と言えると思います。財界は90年代から地方分権、その先にある道州制の導入を繰り返し、繰り返し主張してきました。その方向がそのまま今回、地域主権改革という冠をつけて進められていると見ています。最近も、毎年のように日本経団連や経済同友会が、道州制あるいは地域主権、こういったタイトルの提言をしています。10月23日に地域主権担当大臣と日本経団連が会合しましたが、この中で大臣は、こう言っています。
「経団連の道州制の方向は新しい。経団連の行ったフォームをつくり、一緒に推進してみたい」
もはや財界主導は、間違いないと思います。
問題なのは、なぜ財界がこの地域主権改革に執着するのかだと思います。彼らの主張は、国の権限、財源等を全面的に自治体に移管せよと言っています。条例の制定権を活用して、いま様々な法律で決められている諸々の基準を自由に決められるようにしろと言っています。財界人の中には、ねらいは最低労働基準の規制緩和であり、これを自由に自治体が決められるようにすることにあると公言する者もいるほどです。
そうなると財界にとってどんないいことがあるか。「地域主権」という言葉を提起している江口克彦氏が書いた本で、地域主権改革をするとどんないいことがあるか様々なシュミレーションをしています。将来、日本は12の道州に分かれていくとし、国の権限あるいは財源をこの道州に移管していくことを前提に、例えば、四国州では経営者出身が州知事に就任する、彼は「税制改革」を行い、まず法人の固定資産税、法人税を減らし、相続税は廃止する。すると多くの企業が本社を四国州にし、また全国の富裕層がどんどん四国に移転するという。こした中で四国州の総生産は毎年4%の伸びを示す、こういうミュレーションを示しています。
結局のところ、かつて経団連は多国籍企業に選んでもらえ国を作らなければいけないと言っていましたが、地域主権改というのは、この国の中に企業好み、あるいは富裕層好みの域を作る、そのための地域間競争を促進していく、こういう革ではないかと見ざるをえないわけです。企業や富裕層のたの誘致の材料に、労働者の権利や国民生活に関わる大事な部を提供してしまう改革だと言わざるをえないと思います。
三つ目の特徴は、地域主権という言葉は自己責任の裏返し見ています。地域主権担当の首相補佐官で、かつてニセコ町をやっていた逢坂氏(現・衆議院議員)がインタビューに答ています。地域主権改革で私たちのくらしはどうなりますか聞かれると、「あなた次第です」と率直に述べています。要るに、うまくいくかどうかは自己責任となるわけです。
このことは、いま国会に提出されている地域主権関連法案中に、「地域住民が自らの判断と責任において地域の諸課題取り組むことができるようにするための改革」とはっきり書れています。要するに、国が国民の生活や権利に関わって最低限を保障する時代は終わった、ナショナルミニマムはないんだ、ローカルミニマムでいくんだという考え方であり、国の責任放棄といわなければいけないと思います。
こういう地域主権改革がいま具体的にはどういう動きになっているかに触れておきたいと思います。「原口プラン」と呼ばれる地域主権改革の工程表があります。義務付け・枠付けの見直しや、基礎自治体への権限移譲、一括交付金化、国の出先機関改革など、いろんな分野があり非常に複雑です。切り口が非常に多くあるのが特徴です。時間の制約で全部に触れることはできませんが、二つだけ指摘します。
一つは、義務付け・枠付けの見直しです。法案では45の法律の義務付け・枠付けを見直す、あるいは廃止することを盛り込んでいます。例えば、保育所の設置基準などで、これは都市部に限定した動きですが、自治体の自由に任せるとなっています。でも、保育所の設置基準、例えば、子ども1人あたり1.98という基準がありますが、これは最低基準です。ですから、いまだって自治体が最低基準よりもっと良質の保育所を設置することは自由です。しかし、この基準を見直すという。つまり、義務付け・枠付けを見直すという意味は最低基準をなくせということです。形を変えた規制緩和だと言わなければならないと思います。
二つ目に、国の出先機関改革についてもですが、国の機関を自治体に移すというわけですが、それだけに留まらない。自治体ごとの判断で統合したり、廃止したり、民営化したりすることもできるわけです。結局、これも形を変えた民営化と言わざるをえないと思います。
結局のところ、地域主権改革というのは、規制緩和・民営化を始めとした構造改革を継続して、あるいは、より強力に推し進めるための新しい枠組みづくりということができるのではないかと見ています。
最近になって、経済同友会が「規制改革を通じて経済を再び成長路線へ」という提言を出して、やはり規制緩和は必要だと言い出しています。これは地域主権改革を進める動機と非常に共鳴していると見ています。今日の事態は工程表によると、それぞれの課題に関わって論点を整理して基本的な考え方をまとめるという、一つの大きなヤマ場です。地域主権改革の危険性やそれを推進する勢力のねらいを捉えて、広く国民の前に明らかにしていく、そういうとりくみが必要なのではないかと思います。

司会 この地域主権改革と言われているものが、憲法や労働法制との関係ではどのような問題点を含んでいるのか、この点について佐久間先生からお願いしたいと思います。

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2 地域主権と労働法制改革

 

佐久間 私から、憲法という観点からこの問題をどうみるか、少しお話したいと思います。
都道府県労働局が地方自治体に移管されるということについて、なかなかピンとこないのではないでしょうか。しかし、憲法という観点から考えると、やはり問題なのではないかと思います。こういう大きな改革を考えるときには、憲法に立ち返って考えていくことが必要です。
日本国憲法の基本原理は平和主義、基本的人権の尊重、国民主権ですが、憲法の最高の価値は何なのかというと、憲法13条に規定されている個人の尊厳と幸福追求権です。「すべて国民は個人として尊重される。生命、自由および幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他国政の上で最大の尊重を必要とする」というものです。この最高の価値を実現するために、憲法にはさまざまな規定が置かれ、さまざまな法律がある、これが日本の法体系です。
先程言った基本的人権、平和主義、国民主権は、すべて個人の尊厳を実現するための基本原理なのです。個人の尊厳を実現するために基本的人権が規定されている。基本的人権の中には自由権と社会権があり、労働分野に関わっては、社会権の中の25条「生存権」と27条1項「勤労の権利」があります。自由権の中には「職業選択の自由」があります。
そして、こうした基本的人権を保障するために統治機構があるというのが憲法の体系です。
個人の尊厳または生存権、勤労の権利等を実現するために、まず労働基準という部分では憲法27条2項が「賃金、就業時間、休息その他勤労条件に関する基準は法律でこれを定める」とし、これにより国会が労働基準法や最低賃金法を制定し、労働安全衛生に関しては労働安全衛生法を制定し、労働基準法の中災害補償を担保するために労災保険法を制定しています。これは労働基準の分野です。
雇用の分野では、いま問題になっている労働者派遣法、職業安定法、雇用対策法があり、雇用機会均等法や育児介護休業法、ートタイム労働法などの法律があります。
こういった法律を実現するために、厚生労働省が設置され、執行機関である都道府県労働局が置かれています。そして、労働局長にはさまざまな権限があり、例えば行政指導するとか必要な検査をするとか、命令を出すとか、許認可の権限等が規定されています。
厚生労働省設置法で規定された都道府県労働局の事務分掌に関して見てみます。
代表的なものは、労働契約、賃金の支払、最低賃金、労働時間、休息、安全衛生、災害補償等の、労働条件に関すること、労働基準監督官が司法警察員として行う処分、労災保険、労働者保護、福利厚生、労働力需給調整、職業紹介、職業指導、高齢者の雇用確保、障害者雇用の促進、失業対策、雇用保険、勤労青少年の福祉増進、均等法、育児介護、短時間労働者の福祉の増進、家内労働者の福祉増進、その他実に広い事務分掌を都道府県労働局は担っていることがわかります。
これを知事会のプロジェクトチームは、一気に地方自治体へ移管すると言っています。実施主体が変わるだけだからいいじゃないかという話があるかも知れませんが、本当にそれだけなのかということです。
条例と法律という視点から考えてみたいと思います。
憲法の下に法律があります。全国民に同じように適用されるのが法律です。条例は地方自治体の自主立法です。法律と同じような効力がありますが、条例は基本的には法律に反してはならないとされています。そして、条例は立法した地方自治体に限定され、適用範囲は全く違います。
労働行政に置き換えると、法律に基づいて都道府県労働局長の権限があり、それは基本的に全国一律というのが前提です。
それに対して、労働行政が地方自治体に移管され、労働基準法違反に関する司法警察権、労災保険の認定・給付、職業などの重要な権限が知事や市長の権限になるとしたら、結局は地方自治体ごとに異なる条例に影響されます。労働者が有する憲法上の権利を実現する事務や権限の行使がその居住する地域によって異なるのでは、平等原則(憲法14条)に違反することになるのではないでしょうか。
先程、森崎さんが紹介されていたように道州ができ、法人税や相続税を大きく減らして富裕層や大企業が誘致されたら、そこで働く労働者の権利を守ろうとするよりも、一般市民よりも税金を納めてくれる富裕層や大企業を優先するのではないでしょうか。これが果たして平等なのか、疑問符をつけざるをえません。
例えば、過労死で、このように制度から見ても平等が確保されない。
労災保険に関していえば、地方公務員に関して地方公務員災害補償基金というのが東京にありまして、各都道府県または政令指定都市に支部があって、支部長が県知事や政令指定都市の市長になっていますが、各支部の事務は各自治体の総務課の職員が片手間でやっているという感じです。支部は公務災害について独自に調査するということはあまりなく、市役所の職員が亡くなった場合、その市役所から資料を取り寄せて、本部に上申して意見を伺う。自分たちは公務災害だと思っていても、本部が公務災害ではないという意見を示したら、本部の意見に沿って認定をするという、問題のある運用になっています。これを当てはめれば、労働行政の地方移管によって、まさに民間労働者もそういう憂き目に遇うことになりかねません。職員規模の多い自治体はまだしも、多くの自治体では、地方公務員の公務災害認定もやらなければいけないし、民間労働者の労災認定もやらなければいけないといったら、手が回らなくなり、これも地域間格差が起こって、平等という点に反するということになるのではないでしょうか。
また、労災認定が認められなかったという場合、現在では審査請求、再審査請求という制度があり行政処分への不服申立ができます。最初に各労働局にいる審査官が審査し、不服なら東京にある労働保険審査会へ再審査請求し審議されます。それでも納得できなければ行政訴訟という形になるわけです。行政事件訴訟法が改正され、裁判管轄が広がりましたが、自治体が被告になった場合、訴訟をどこで行うのかはっきりしていません。現行では複数箇所で行政訴訟の提起ができて、遺族が被害者の亡くなったところとは別の場所に住んでいる場合でも、遺族の住所地で行政訴訟は提起できるわけですが、それは相手が国だから成り立っていることだと思います。

司会 法律の面からご指摘をいただきましたが、この地域主権改革は、国内法に限らず、国際法の観点からも問題が多いという指摘があります。ILO条約に詳しい村上さんからその点についてのご指摘をお願いしたいと思います。

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3 地方移管は明らかなILO条約違反

村上 私は大学で社会政策の授業を担当していたことがあり、その時にILO条約について講義をしていました。それ以来、一貫してILO条約についてライフワークとして研究してきました。また、私はかつて新聞社にいまして新聞労連出身ですが、ILO条約の批准を進める会にも参加してきました。批准を進める会では、『国際労働基準で日本を変える』という本を1998年に出し、そのころILO条約を学ぼうという気運も広がり、一つの話題にもなりました。
さて、ILO条約は188ありますが、日本の批准している条約数は44条約と少ないのが実態です。労働時間に関する18ある条約は一つも批准していません。しかし、ハローワークや労働基準監督制度に関する条約は、昭和28年に批准しています。この条約は労働基準局を独立行政法人化しようという案が出たときに、それを阻止することができた絶大な威力をもっている条約です。地域主権改革の名のもとに出てきたハローワークや労働基準監督署の地方移管は、明らかに日本が批准したILO条約違反だということを指摘をしておきたいと思います。
一方、経済問題という面から見るとどうでしょう。2008年以降、世界的な大恐慌が進んでいます。ギリシアの問題も起きていますが、これから何が起こるか分からない。世界経済の破綻へと突き進んでいくかも知れない。そういう局面にあると思いますが、地域主権改革戦略会議の議論は、実は世界経済を破綻させた規制緩和、構造改革路線、竹中・宮内路線とつまり、同じだと申し上げたいと思います。
岩波書店から宇沢弘文さんが『新しい経済学は可能か』という本を昨年出し、内橋克人さんと警鐘を鳴らしています。また、その中で、ジョセフ・スティグリッツというノーベル賞をもらった経済学者を紹介していますが、このスティグリッツが徳間書店から『フリーフォール』という本を出しています。グローバル経済はどこまで落ちるのか、新自由主義、市場原理主義の経済路線がどのような危機をもたらしたのか、これからどこまで急降下するのか、そしてアメリカでいうとブッシュを継承したオバマも同じ路線を歩んでいるということを指摘しています。ですから、この地域主権改革は日本を破綻に追い込む、とんでもない改革だといえます。
冒頭申し上げましたが、労働基準監督署、ハローワークの地方移管は、日本が批准しているILO81号、88号条約の明白な違反です。
ILO81号条約は労働監督制度です。1953(昭和28)年に批准しています。これを受けて、労働監督制度が定められています。88号条約は職業安定組織、具体的にはハローワーク等を定めた条約ですが、1953(昭和28)年に批准しており、労働者にとって大事な条約です。ついでに言いますと、実は2007年に労働安全衛生の促進的枠組み条約、187号条約を日本は批准しています。これもまた大きな柱で、この3つが労働者の安全と健康問題、権利の問題に大きく関わっている条約です。
ですから、この条約を全面的にこれからの運動に生かしていくことが必要ではないかと思います。
ところで、「労働行政の地方移管はILO条約に違反している」と労働政策審議会は、4月1日付けで出先機関改革に関する意見を公表しました。88号条約第4条で「職業安定組織の構成及び運営並びに職業安定業務に関する政策の立案について、使用者及び労働者の代表の協力を得るため審議会を通じて適当な取り決めが行われなければならない」と書かれており、労政審は労働者、使用者、有識者の3者の代表で構成され、その目的を実現しようとしています。88号条約の第1条では「職業安定組織の本来の行動は完全雇用の達成及び維持のための、国家的計画の不可分の一部として雇用市場を最もよく組織化することである」を定めています。第2条では「職業安定組織は、国の機関の指揮監督のもとにある職業安定機関の全国的体系で構成される」としており、したがって、労政審は、明白に違反すると言っているのです。
81号条約は労働基準監督署等の役割を規定したものです。第4条では「労働監督は加盟国の行政上の慣行と両立しうる限り、中央機関の監督及び管理のもとに置かなければならない」、6条では「監督職員は分限及び勤務条件において、身分の安定を保障され、且つ政府の更迭及び不当な外部からの影響と無関係である公務員でなければならない」と定めています。16条では「事業場に対しては関係法規の実効的な適用の確保に必要である限り、頻繁に且つ完全に監督を実施しなければならない」とありますから、地方移管となるならこういうことができなくなるということです。19条では「労働監督官または地方の監督事務所は、その監督活動の結果に関する定期報告を中央監督機関に提示するものとする」とし、20条では、「中央監督機関はその管理のもとにある監督機関の業務に関する年次一般報告を公表しなければならない」として、労働監督制度ILO81号条約は国の機関がしなければいけないことを明記しています。これらが道州制にとって障害になるから、まず地域主権改革の中で地方移管しようとの発想が出てきたのではないでしょうか。
ILO条約を批准している、批准していないが問題になっていますが、批准している条約を労働者の権利として最大限活用するということは、いまの情勢で必要ではないかと思います。日本が世界で最初に批准した労働安全衛生の促進枠組条約の187号条約では、労働者の安全と健康を確保するために、政府、使用者、労働者が安全で衛生的な労働環境の確保に積極的に参加し、予防の原則が最優先課題とされています。さらに、国は安全衛生に関するシステムとプログラムにより、安全で健康な作業環境を漸進的に達成しなければならないとされ、、システムは国が責任を持って労使と協議して確立することとされます。187号条約では労使の役割を明記しておりまして、4条では「加盟国は最も代表的な使用者団体及び労働者団体と協議した上で、職業上の安全及び健康に関する国内制度を定め、維持し、漸進的に発展させ及び定期的に検討する」と、労政審の役割を規定し、このことに基づいて労働者側の健康を守るということが定められています。2007年に批准しました。その時に、厚生労働副大臣の武見敬三氏は「我が国政府としては国内的に促進し、また諸外国に範を示し、けん引するという見地から、この早期締結に向けて国会で審議していただくことにしています」と決意を表しています。この年に文部科学省は、この条約に基づいて全国の学校等に労働安全体制の整備を指示し、教職員の健康を守る具体的な対策が進んできたという情勢があります。これに反対する形で、規制緩和・構造改革路線として地域主権改革が出てきており、ぜひ、このILO条約を生かして、これから運動を進めなければいけないと思っています。
地域主権改革による労働基準監督署やハローワークの地方移管は、ILO条約違反であり、このILO条約に明白に違反するということは、国際条約の遵守を定めた憲法98条にも明白に違反しています。つまり、労働行政の地方移管は憲法違反です。地域主権改革を言っている人たちが、まったく国際労働基準を知らないで言っているだけでなく、国際条約のルールもわきまえないで言っていることはけしからんと思います。このような議論で、労働者の権利が脅かされようとしていることについて、声を大きくしていかなければならないと思っておりますし、ILOの21世紀戦略の「ディーセントワーク」にも逆行しており、地域主権改革は、ILO条約など国際労働基準に対する挑戦だと言っていいかと思います。
「地域主権改革は道州制の地ならし」と京都大学の岡田先生が詳しく述べられていますが(『季刊労働行政研究』(VOL22))、私の恩師で地方自治をずっと研究していた小沢辰男先生は、「道州制は地方自治を解体するんだ」と常々話をしておりました。そのことをあらためて銘記しておく必要があると思います。


司会 地域主権改革の名のもとに何が行われようとしているのか、その後、国内法あるいは国際法の観点から労働行政が地方移管されることの問題点等についてご報告をいただきました。
もう一回、森崎さんにご登場いただいて、労働分野の地方主権改革の情勢や実務にてらした問題点等についての報告をお願いしたいと思います。

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4 国の出先機関改革と人権保障

森崎 私から出先機関改革にしぼって、労働行政の実態に照らしてどのような問題があるか、お話させていただきます。
この問題に関わっては、すでに知事会が意見をとりまとめています。とりまとめたのは、「国の出先機関原則廃止プロジェクトチーム」というすごい名前のプロジェクトチームの人たちです。この人たちがとりまとめた内容(中間報告)を見ると、ハローワーク、労働基準監督署を含めて労働局全体を地方移管だと主張しています。
これに対しては、先程村上さんからも触れていただきましたが、労働政策審議会がさすがにそれはまずいだろうという意見書を提出しています。
私は、労働基準監督署あるいは労働局で労働基準監督官という仕事をしてきましたが、そういう仕事を労基法違反を行っている地方自治体に移した時にどうなるか。そもそも最低労働条件の確保というのは憲法上の要請ですから、その運用に関わってしっかり国がナショナルミニマムとして保障すべきであり、自治体ごとに最低労働基準が変わっていいとは思いません。
自治体が実施主体になると、職務の公正という観点で考えても問題があると思います。監督官が臨検監督をする、あるいは司法警察権を行使して捜査をする、こういう時に私も幾度か経験がありますが、地元有力者とか地方議会議員と対立をするわけです。そういう人から「お前なんか知事や市長に言ってクビにしてやる」と言われたことは、何度もあります。その時に、「どうぞご自由に」と言えないと労働基準監督の公正は保てないと思います。
皆様の中には、そうは言っても、警察の組織は地方自治体の組織ではないかと思われる方もいらっしゃるでしょう。でもあの組織は沿革があってものすごいいびつな組織です。地方公務員として採用されても警視以上の幹部になると国家公務員になる。その指揮命令のもとに地方公務員である警察官の人たちが仕事をしている。地方自治、国と地方自治体の対等という方向とは真逆の組織です。ある意味では自治体にとってみれば屈辱的な組織なわけで、そういうものをまた作ろうとしているわけですから、筋違いではないかと思います。
ハローワークに関わっても考えて頂きたいのです。先程、村上さんからILO条約の話がありましたが、先進諸国を見ても職業紹介の仕事と雇用保険の仕事、この二つを柱にして多様な雇用対策を一体的に事務を行うというのがハローワークの基本です。この形態は先進国共通のシステムでアメリカ、ドイツ、イギリス、フランス、どこでも国の機関が一体的に行っており、このことはぜひ、知っていただきたいと思います。
このうち、例えば雇用保険を自治体の事務にするとどうなるか、実際の都道府県ごとの保険収支は統計で出ています。保険料は3倍、4倍に跳ね上がる自治体が必ず出てきます。場合によっては破綻するでしょう。東京の一人勝ちになることは間違いないのです。
また、雇用保険の実務を想像してみて下さい。仕事を探す時、働いている時、仕事を辞めざるをえなくなって雇用保険の給付を受ける時、それぞれいろんなところに住んでいるわけです。自治体が変わることもあります。自治体毎に違う制度を設けることが現実的なのか。そういう素朴なところから、わたしたちは問題ではないかと思うわけです。
他方、職業紹介だけ自治体に移せという議論がありますが、これには実は失敗例があります。イギリスですが、職業紹介と雇用保険の事務を別の機関で始めたことがあります。雇用保険は職業相談・紹介をしないで払いますから、就職の意思があるかどうか関係なく支給することになり濫給になりました。職業紹介も雇用保険の裏付けがないものですからうまくいかない。結局、元に戻して、一体の組織で運営するようになったという経過があります。こういうことを知っていたら、(今日の改革は)やはりおかしいと思わざるをえないわけです。
自治体の財政力などの違いから、最低限守られるべき権利保障が異なってはならないと思います。国の責任で、勤労権や最低労働条件の確保というものを、人権として保障してこそ、住民が安心して身近な自治体の中でいろんな創意工夫して、地方自治の花を開かせることができるのではないか。決して自己責任の問題として片付けてはならないと思います。

 

司会 最後に、佐久間先生、そして村上さんからそれぞれご発言をお願いします。

佐久間 労働政策審議会の意見について、2点ありますが、まず一つは、ハローワークの地方移管です。最初に、ハローワークは憲法27条に基づく勤労権を保障するため、セーフティネットであるという文言があります。憲法27条の「勤労の権利」に憲法22条「職業選択の自由」も加えられるべきでしょう。また、「国による全国ネットワークのサービス推進体制を堅持すべきである」。これはILO条約の問題もありますが、法律によって全国斉一の職業紹介のサービスを提供する、これは憲法が要請していることです。なぜかというのは、最高の価値である個人の尊厳を実現するためです。
次の、労働基準行政等について、全国統一ということが盛んに出てきます。国民が個人として尊重されるためには、労働者の権利保障は全国どこでも格差があってはいけないのです。
先程、村上さんがILOが提唱しているディーセントワークに触れられました。ディーセントークというのは直訳するとなかなか意味が通りづらいですが、私は憲法25条や労働基準法1条というところから日本語訳を作ってもいいのではないかと思っています。憲法25条は「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と規定しています。それを受けて労働基準法1条1項は、「労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない」と規定しています。ディーセントワークを訳すなら「健康で文化的な労働」または「人たるに値する労働」という訳し方もできるではないかと思っています。
それを実現するのは、不満はあっても国の機関であろうと思います。その意味で地方自治体がまったく悪いということではないですが、格差を作らないという点では国が今後ともがんばるべきだろうと思います。今後、労働弁護団も法律家の立場から意見を述べていきたいと思います。そして、今後とも皆さんとともにこの問題を広めていきたいと思います。

村上 簡単に補足を致しますが、地域主権改革として出されているハローワーク、労働基準監督署の地方移管は明らかに日本が批准をしたILO81号及び88号条約に違反だと再度申し上げておきたいと思います。
81号条約でいうと、世界の批准国数は121カ国です。88号条約の批准国数は80カ国です。世界のほとんどの国は批准をしているということです。この条約に対して敵対的な行動をとるということは、日本が先進国から脱落する、世界の笑い者になるということなのです。そして、国際条約の遵守を定めた憲法98条に明らかに違反します。こういうとんでもないことがいま企図されているということを申し上げておきたいと思います。
その旗降り役がマスコミです。私もマスコミ出身だから同僚もいるし、後輩もいるから言いたくはないですが、破綻した構造改革路線である地域主権改革を美化する最近の論調は特にひどいということ、さらに国際労働基準について全く不勉強のまま記事を書いていることを、ここで指摘しておきたいと。記事の書き方はこうです。「地域主権改革による地方移管について厚労省は反対した」というものです。背景にあるILO条約違反だからということは一切書きません。特に朝日はひどいものです。私たちはそういう面を見ながら運動をしていかなければいけないと思います。
同様に、このILO条約の大切さを今日のフォーラムで確認していただき、運動を進めていきたいと思っています。
全労働の『季刊労働研究』の中で笹山弁護士がこういうことを言っています。「私たちは、労働法の構造とILO81号条約を合わせて考えて、労働行政の充実というものを、憲法が求め、国が基本方針として応えているものなので、実現すべきだと求めていかなければならないと思います」と指摘しております。
そういうことを確認していただいて、これからの運動を進め、大きく発展させていただければと思っています。

司会 今日は長時間のフォーラムに多数お集まりいただきありがとうございました。すでに、この課題に対するとりくみは始まっています。私たちは、労災保険の民営化やホワイトカラー・エグゼンプションに対する運動で、貴重な到達点と経験を持っています。労働行政の地方移管問題は、大きな問題です。問題の本質がわかりづらい課題ですが、しっかり学習して、全国で取り組んでいきましょう。

                                   以 上

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